一人親方は労災上乗せ保険に加入しないとまずい?~建設業の独立知識~

一人親方は労災に特別加入していれば、万が一労働災害でケガをしても、補償を受けることができます。

それでも、一人親方は労災上乗せ保険に加入しないとまずいのでしょうか?

労災上乗せ保険への加入は任意なので、自ら判断する必要があります。

結論からお答えすると、一人親方は労災上乗せ保険に加入しないとまずいです。

もちろん、正当な理由があるのならしっかり加入したいですよね。

ぜひここで、一人親方が労災上乗せ保険に加入しないとまずい理由を確認しておいてください。

最後には「上乗せ保険を選ぶ際のポイント」を解説するので、保険選びの参考にどうぞ。

前回の独立志望者向け記事はこちら
建設業許可の取得は必要?~建設業で独立起業するための知識を学ぶ~

Q.一人親方は労災上乗せ保険に加入しないとまずい?

まずは本題を解決します。

一人親方は、労災上乗せ保険に加入するべきです。

A.加入するべき

一人親方は政府労災に特別加入していても、労災上乗せ保険に加入するべき理由があります。

理由は4

  1. 政府労災だけでは補償が薄い
  2. 事故にあった場合のリスクが高い業界
  3. 従業員の補償も上乗せできる
  4. ゼネコンの動向

ひとつずつ解説していきますね。

政府労災だけでは補償が薄い

万が一事故が起きた場合に、政府労災だけでは充分な補償が受けられません。

具体例

政府労災(一人親方、事業主の特別加入を含む)の休業補償
政府労災の休業補償額=働いていたらもらえるはずだった収入の約80

正確に言うと、政府労災の休業補償は「給付基礎日額×休業日数の80%」となっています。

しかし、休業4日目からが支給対象。

休業した始めの3日間は支給対象外となるので、実際の給付額は80%を下回ります。

通常通り働いた場合の収入より少なくなるのでは、充分な補償と言えません。

給付基礎日額とは?
労働基準法における平均賃金。被災した日から直近3カ月の間に支払われた、賃金の総額(賞与など除く)を、その期間の暦日数で割った1日当たりの賃金。

事故にあった場合のリスクが高い業界

建設業は事故にあうリスク、事故にあった場合のリスクが高い業界です。

身体に障害が残って仕事ができなくなってしまったり、最悪の場合は、死亡事故が起こることもあります。

厚労省から令和71月に発表された労働災害発生状況によると、令和6年の1年間で建設業の災害死亡者数は218(全体の約32)でした。

常に危険と隣り合わせの現場で作業している以上、万が一の補償は手厚くしておくべきでしょう。

厚生労働省 労働災害発生状況

従業員の補償まで上乗せできる

一人親方を続けていれば、いずれ事業主となり労働者を雇うことになるかもしれません。

そうでなくても、応援など外注を依頼することもあるでしょう。

労災上乗せ保険には、正社員や専従者だけでなく、パートや契約社員、応援などの外注従事者にまで補償が上乗せできる保険もあります。

万が一、事故で従業員に後遺症が残ったり、死亡してしまった場合、雇い主は億単位の賠償責任を負うこともあります。

そうなってしまうと、政府労災だけでは補償しきれません。

労災上乗せ保険の補償範囲例

  • 一人親方(事業主)である自分自身
  • 正社員、専従者などの従業員
  • パートや契約社員などの期間従業員
  • 応援などの外注従事者
  • 第三者や物損

補償範囲は保険会社や保険の内容によって異なります

ゼネコンの動向

大手ゼネコンでは、提出が必要な安全書類に、労災上乗せ保険の保険証券が含まれています。

要するに、労災上乗せ保険の加入を義務付けているということです。

今は提出を求められない小規模な地場ゼネコンなどでも、今後は加入を求められるケースが増えていくと見込まれます。

あらかじめ上乗せ保険に加入しておくことで、取引先からの信用も得られます。

大手ゼネコンに提出する安全書類例

  • 送り出し教育、新規入場者教育実施報告書
  • 作業員名簿、社会保険加入状況
  • 各種資格証
  • 建設業許可証
  • 工具、通勤車両届
  • 再下請通知書
  • 年少者、高齢者就労報告書
  • 労災上乗せ保険証

労災上乗せ保険とは

労災上乗せ保険は、任意労災保険とも呼ばれます。

政府が運営する通常の労災より補償範囲が広く、補償内容が手厚い保険です。

加入は任意で、販売元の保険会社や組合によって保険の内容が違います。

政府労災と労災上乗せ保険の違い

ここでは、政府労災(一人親方特別加入を含む)と労災上乗せ保険の違いがわかりやすいように、それぞれの特徴を比較してみます。

政府労災の特徴

  • 政府運営で強制加入
  • 補償内容は療養補償、休業補償、障害補償、遺族補償など
  • 休業補償額は最大80
  • 労災認定後に支給

労災上乗せ保険の特徴

  • 民間運営で任意加入
  • 法定外補償保険、使用者賠償責任保険、業務災害補償保険など組み合わせ可能
  • 死亡保障、後遺障害補償、休業補償の他、保険会社や組合によって様々なオプション
  • 政府労災の認定を待たずに受給できる保険もある

一人親方が上乗せ保険に加入していないリスク

一人親方は政府労災に特別加入できるので、万が一の場合にも最低限の補償はあります。

しかし、労災認定を待ってからの受給や80%が上限の休業補償では、資金がショートする可能性もあるのではないでしょうか?

また政府労災だけでは、従業員や第三者に対する賠償問題に対応できません。

応援など外注を依頼する場合も含めて、かなりのリスクを抱えながら作業を進めることになります。

どんな時に補償を受けられる?

実際どんな時に労災上乗せ保険の補償を受けられるのかまとめました。

労災上乗せ保険で補償を受けられる事例

  • 労働災害が原因で通院した場合
  • 労働災害が原因で休業した場合
  • 労働災害が原因で後遺障害が残った場合
  • 労働災害が原因で死亡した場合
  • 労働が原因で精神疾患や病気になった場合
  • 労働災害により労働者への賠償責任が発生した場合
  • 労働災害により第三者への賠償責任が発生した場合

補償範囲は保険会社や保険の内容によって異なります

どんな補償を受けられる?

労災上乗せ保険で受けられる補償内容をまとめました。

労災上乗せ保険で受けられる補償内容の一例

  • 一人親方(事業主)、従業員など労働者の治療費、通院費
  • 一人親方(事業主)、従業員など労働者の入院費、手術費
  • 一人親方(事業主)、従業員など労働者の休業補償金
  • 一人親方(事業主)、従業員など労働者の後遺症障害補償金
  • 一人親方(事業主)、従業員など労働者の死亡保障金
  • 第三者や建物、資材などへの賠償金

補償内容は保険会社や保険の内容によって異なります

上乗せ保険を選ぶポイント

労災上乗せ保険は保険会社や組合によって補償内容や保険料が違います。

どうしたら自分に合った保険を選べるのか?

上乗せ保険を選ぶポイントを順番に解説します。

①補償内容の比較

まず最初に、一人親方(事業主)として事業を行っていく中で、必要な補償を確認しましょう。

チェック項目はこちら

  • どんな場面で補償されるか?
  • 誰が補償されるか?
  • 保険金はいくらか?

必要な補償が含まれた保険をリストアップして次に進みます。

②保険料の比較

必要な補償が含まれている商品をリストアップしたら、実際に見積りを出してみましょう。

保険会社や組合によって内容に差があるので単純比較はできませんが、保険料に違いがあるはずです。

支払い方法やプランのカスタマイズ性など、価格差以外のポイントもあるかもしれませんね。

③万が一に備えて早めの加入手続きを

自分に合った保険を選んだら、できるだけ早く加入手続きを進めましょう。

事故が起こる前に加入していなければ補償を受けることができません。

まとめ

ここまで解説してきた通り、一人親方(事業主)は、労災上乗せ保険に加入するべきです。

建設業は、高所作業や重機作業など危険が多い仕事。

労災上乗せ保険への加入で、賠償保障などのリスクに備えておきましょう。

また一人親方(事業主)は、事業規模や雇用状況など変化が起こりやすいものです。

加入後も、更新の際には内容を見直し、状況に応じたプラン変更を行うなど工夫してみましょう。

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